2024.2.27公開

はじめに

 泡消化剤やフライパンの撥水用途などで広く利用されてきたPFASピーファス(Per- and Polyfluoroalkyl Substances/有機フッ素化合物)が、環境中に放出され、水系を汚染していることが明らかになっています。このような汚染が発生した原水を利用して供給される飲料水によって健康への影響が懸念されています。
 農民連食品分析センターでは、募金で設立された背景を踏まえ、市民や研究者などの取り組みを積極的に支援するため、PFAS検査コースを開設しました。
 このショートレポートは、試験法の開発過程で、実際の河川水サンプルでどのようなデータが得られるか実試料テストをおこなった際の結果の一部を紹介したものです。

分析試料と採水地点について

 2023年12月11日、石神井川の「平成みあい橋(東京都練馬区石神井川町1丁目1-29)」で河川水を500 mL採水、これをLC-MS/MSによるPFAS 7成分コースを実施しました。この地点は、川底から複数の湧水が目視で確認できる特徴的な場所となっています。

検査法について

測定雰囲気 試料について精製処理をおこなった後、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用い、対象成分の定性、定量を行います。測定対象成分の定量下限値は、PFOA, PFOS, PFHxS, N-MeFOSAA, PFDA, PFUnDAで0.2 ng/Lとなります。PFNAについては0.6 ng/Lとなります。

詳細:分析センター:水試料に含まれるPFAS検査コース

検査結果について

 測定結果は以下の通りです。PFOSとPFOA合算で、64 ng/Lの検出が認められました。PFOSとPFOAは、公共用水域や地下水において、環境省による要監視項目として暫定目標値50 ng/Lが設定されています。今回の測定では、これを超過する結果となりました。

対象成分名 検出値 ng/L 環境省の暫定目標値 ng/L
PFOA 9 -
PFNA 5 -
総PFHxS(直鎖+分岐鎖) 28 -
総PFOS(直鎖+分岐鎖) 55 -
PFDeA < 0.2 -
PFUnDeA < 0.2 -
N-MeFOSAA < 0.2 -
PFAS2成分(PFOA+PFOS)
64
50
PFAS7成分 98 -

補足

 今回、石神井川で採取された河川水から検出されたPFOS、PFOAの合計値は、環境省が設定する暫定目標値である50 ng/Lを超過する結果となりました。近隣の暮らしの中で広く使われてきたものや、こうした成分を利用して製造等を行ってきた事業者などから排出されたものに由来する検出と推測されます。

 採水地点は、川底のあちこちで湧水を目視で確認できる場所であること、また、石神井川は雨が降ると、近隣地域の表面水が下水として流入する仕組みとなっていること、などを踏まえると、単に川を流れている河川水だけでなく、湧水や下水も含めた形で、PFOS, PFOAが流入している可能性が原因としてあげられます。

 今回の調査だけでは、具体的に排出源がどこなのかといったことを判断することはできませんが、より多くの地点を対象にして、複数の時期で測定を行えば、排出源が広域にわたるのか、特定の場所に由来するのかなどを判断できる可能性があります。また、こうした調査の取り組みができれば、必要に応じて対策や河川利用時の調整に役立つと考えます。

 現在、石神井川の水は、飲用水、農業用水、工業用水として利用は行われていないことから(参考:東京都建設局:石神井川河川整備計画)、飲料水や農産物への心配はしなくてもよい状況にあるとは言えます。しかし、今回の検出に繋がった主な混入源が、湧水であった場合、地下水の汚染が起きていることが考えられます。近隣で、地下水を利用した農業生産などが行われている場合があれば、生産者が安心して生産ができるよう、また地場産農産物を消費者が安全・安心に食べられるよう、地下水の検出状況について適切なデータ提供と案内などが行われることが望まれるものでます。

参考資料

環境省:令和2年度有機フッ素化合物全国存在状況把握調査の結果について
環境省:PFOS、PFOAに関するQ&A集
東京都建設局:石神井川河川整備計画
練馬区:練馬区の環境(令和4年度報告)*第2章 緑の保全と創出:河川・池の環境

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