韓国を原産地とする市販のズッキーニや種子の遺伝子組換え調査2023

はじめに

　2023年3月26日、韓国の食品医薬品安全処が、韓国国内で、未承認の遺伝子組換えズッキーニ(zucchini / 주키니）2品種が流通されていたことを発表し、大きなニュースとなりました。

　食品医薬品安全処は、種子や生鮮ズッキーニだけでなく、ズッキーニを含む加工食品についても検査も行っていて、その結果、複数の商品から遺伝子組み換えズッキーニが検出されていることを報告しています。8年間、発覚することなく栽培、流通してしまっていただけに、この影響の把握にはかなり大きな監視網を拡げないといけない状況になっていることがうかがえます。（この辺の経緯については、以前、まとめたレポートをご参考下さい。）

　さて、貿易統計を見ると、日本は、それほど多くはないものの韓国からズッキーニにあたる品目を輸入していることがわかります。上述のような背景を踏まえれば、韓国の食卓を混乱させた未承認の遺伝子組み換えズッキーニが、日本にも届いている可能性が心配されます。そこで、農民連食品分析センターでは、PCR法を用いた遺伝子組み換えズッキーニの市場調査を行いました。このレポートは、日本に韓国から輸入されたと判断できるズッキーニなどについて、遺伝子組み換え検査を行った調査レポートの第1報となります。

日本にも届いている可能性はあるの？

　貿易統計で、品目コード0709.93（かぼちや類（ククルビタ属のもの））を調べると、2022年度は、韓国から264トンほどの輸入があったことが確認できます。この品目コードには、かぼちゃなども含みますので、264トン全てがズッキーニとして輸入されているとは考えにくいですが、十分に気になる輸入トン数です（表1）。

　実際に、韓国産ズッキーニかぼちゃは、楽天市場やYahoo!ショッピングなどでも、エホバクなどの名称で、販売されていることが確認できます。

どんな遺伝子組換えズッキーニなの？

　今回、見つかった未承認遺伝子組換えズッキーニは、CZW3系統とZW20系統です。病害抵抗性を持つように改変されています。ズッキーニなどのウリ科の植物に病気をもたらすウイルスの遺伝子配列を、敢えてズッキーニに組み換えて発現させることで、ウイルスに対する抵抗性を獲得させています。ヒトでいうところのワクチンによる免疫獲得に似たような仕組みと言えば良いでしょうか。同等の系統として、日本ではパパイヤがすでに承認済みとなっていますが、ズッキーニでは、カルタヘナ法の承認を得ているものはまだなく、日本でもこの系統が栽培、流通などされると、韓国と同様に違法となります。

試験方法

　オンラインショップや東京都内の店舗から、生鮮ズッキーニやズッキーニ加工品、種子などを購入し、サンプルとしました。

　未承認の遺伝子組換えズッキーニであるかどうかについての判定は、CZW3系統とZW20系統に導入されている配列について、以下のプライマー対を用いたPCR法で確認を行いました。

　DNAの抽出は、Monofas植物キット（アニモス社）を使用しました。PCR増幅条件は、韓国の試験法に準拠して行いました。

分析結果

　生鮮ズッキーニ1検体、乾しズッキーニ1検体、韓国系品種のズッキーニ種子2検体、合計4検体について試験を実施しました。PCR試験の結果、いずれも陰性で、未承認の遺伝子組換えズッキーニと判断できるものはありませんでした。

表2　PCR法による確認検査の結果

	写真	品名	販売者	生産地	分析結果
1	（裏面）	ズッキーニ（生鮮） 韓国かぼちゃ（韓）	（株）韓国広場 （購入店住所：東京都新宿区歌舞伎町2-31-11） 購入日：2023年4月12日	韓国	組換え遺伝子を検出せず
2		乾しズッキーニ	（株）韓国広場 （購入店住所：東京都新宿区歌舞伎町2-31-11） 購入日：2023年4月12日	韓国	組換え遺伝子を検出せず
3	（裏面）	ズッキーニ種子 「マッチャン」	株式会社サカタのタネ Lot.(10)756932	中国	組換え遺伝子を検出せず
4	（裏面）	ズッキーニ種子 「カボッキー」	松永種苗株式会社 Lot.11465	韓国	組換え遺伝子を検出せず

考察と補足

• 今回の調査では、いずれの検体からもCZW3系統およびZW20系統に導入されている組み換え配列の増幅は確認されませんでした。よってこの4検体は、韓国で発覚した未承認の遺伝子組み換えズッキーニではないと判定されます。
• 試料No.3の種子サンプルは、韓国系のズッキーニ品種エホバクとして販売されていたため、検査対象としましたが、種子の生産は「中国」となっており、韓国を由来とするものではありませんでした。
• 今回のケースは、8年にもわたり、広く流通してしまっていたことを踏まえれば、回収や発見ができなかったルートなどが残っている可能性があると考えます。今後、そういった取りこぼしが原因となって、遺伝子組換えズッキーニが、意図せず栽培、流通されてしまう可能性は残っているのかもしれません。継続した監視が求められると考えます。
• 種子は毎年更新するというのが最近の農業では一般的となっていますので、確率は低いとは考えられますが、交雑などによりこの抗ウイルス配列が近縁の植物に伝播している可能性もあります。自家採種など行っている場合があれば、その影響をうけているかどうかについて情報の提供と調査が求められます。
• 日本消費者連盟さんらが、2023年4月11日に農林水産大臣宛に公開質問状を提出し、今回、韓国で見つかった遺伝子組み換えズッキーニが、日本に輸入されていないか、監視態勢などはあるか、を問いあわせています（日本消費者連盟）。これに対して、2023年4月23日に、農林水産省が回答をしています。日本消費者連盟さんのウェブページにPDFファイルがあり、読むことができます。（日本消費者連盟）
• この回答には、農林水産省で令和3年に、水際検査で、アメリカ産のペポかぼちゃ（ズッキーニを含む）種子について3検体、検査を実施したとあります。違反はなかったとのことです。
• この回答書は、あくまで種子を管理する農林水産省としての立場で行った検査について報告しているだけで、厚生労働省の検疫所などで、食品衛生の観点からの監視としてこの遺伝子組換えズッキーニの調査や検査が行われたかどうかについては、触れられていません。改めて厚生労働省への問合せが必要と考えます。
• 以前のレポートでも紹介しましたが、この問題となっている遺伝子組み換えズッキーニは、アメリカでは、1996年から栽培が始まっており、ISAAAのBrief 54には、現在、1,000ヘクタールほど生産されているという記述がみつかります。
• アメリカから、日本にこの系統のズッキーニが輸入されているかについては、先の回答書では、ズッキーニに絞って輸入量の統計は取られておらず、アメリカからどの程度、生鮮ズッキーニおよびズッキーニ種子が輸入されているかは、把握していないと答えています。ひょっとしたら、アメリカで生産されている遺伝子組み換えズッキーニが把握されないまま、輸入されている可能性はあるのかもしれません。
• 農林水産省、厚生労働省は、日本に輸入されている生鮮ズッキーニ、そしてその加工食品、また種子について、ズッキーニに絞った正確な統計を取り、違法な流通が起こらないよう継続的調査を実施することを期待したいものです。

参考資料など

参考：日本での未承認遺伝子組換えの栽培事例について

　ちなみに、日本でも、栽培が承認されていない遺伝子組換えワタ品種の栽培が、誤って行われていることがわかっています。これまで、農民連食品分析センターでは、農林水産省と環境省に積極的対応を要請していましたが、現在も不十分なままで、認識できないまま栽培をしてしまっている方がいるようです。

　2022年冬から農民連食品分析センターでは、調査を再開しましたが、既に、新たに数点の確認をしています。もし、身の回りで綿を栽培している方がいましたら、問題ないか確認するように伝えてあげてください。また、自分の栽培している種子について心配がある方は、一度、分析センターにご相談ください。情報などをお渡しできるかと思います。

農民連食品分析センターについて

　農民連食品分析センターは、1996年に多くの農業者や消費者の募金により設立された背景を持つ世界的にも珍しい分析施設です。募金による設立のため、企業や行政などの影響を受けることなく、独立した立場で活動を行っています。

　1996年の設立以来、私たちの調査活動は、募金で運営されています。正直なところ、私たちの活動に必要な財政は厳しいところにあります。消費者や農民の立場に立った活動を続けていくためにも、みなさんからの支援が欠かせません。

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