はじめに

　私たちのこれまでの調査では、原材料に、輸入小麦を使用する製品からは、除草剤グリホサートが検出される可能性が高いことがわかってきました（報告1/報告2/報告3/報告4/報告5）。これは、収穫前にグリホサートを散布する「プレハーベスト処理」が海外では認められているからです。検出される残留値が、食品衛生法の基準値を超過することはありませんが*、パンや麺類などから高い頻度で検出されることがわかります。その検出率は、種類やメーカーを問わず高く、目をみはる傾向があります。一方、国産小麦を使用する製品では検出されることがありません。日本では、小麦にグリホサートのプレハーベスト処理は認められていないためです。

　大豆でもグリホサートが検出されることがわかっています（報告6）。これは、大豆も小麦同様に、プレハーベスト処理に相当する散布がおこなわれているためです。小麦と大きく異なっている点は、国産大豆であっても検出が認められるというところです。2013年に、日本でも収穫前散布の使用登録がされてから、各地でおこなわれていることが確認できています。このような背景があるため、小麦と違い、国産大豆を使用する製品からも検出されることがあります。

　私たちの身の回りには、小麦や大豆を使用したおやつはたくさんあります。「子どもも好きで食べる、おなじみのおやつのあれこれからも、やっぱりグリホサートは検出されてしまうのか知りたいです。」というリクエストに答えるため、今回、遺伝子組み換え食品いらない！キャンペーンさんとママパパ達が、身の回りの気になる製品、知りたい製品を選び、それを私たちが検査しました。

　このレポートは、小麦を主原料にしたおやつ8製品、大豆を主原料にした6製品、とうもろこしを主原料にした1製品、じゃがいもを主原料にした3製品、グミ1製品、りんごジュース1製品についての結果をまとめたものです。

*一律基準(0.01 ppmを超過する製品はたくさんみつかりますが、検出値を、その製品を製造する際に予想される加工係数から原材料の小麦に換算した場合、小麦に設定されるグリホサートの基準値30 ppmを超過することはどうもなさそうです。

分析方法などについて

• 検査試料は、2022年2月に遺伝子組み換え食品いらない！キャンペーンさんが購入し、分析センターへ届けられたものを試験しました。
• 検査試料は、小麦を主原料にしたおやつ9製品、大豆を主原料にした6製品、とうもろこしを主原料にした1製品、じゃがいもを主原料にした3製品、グミ1製品、りんごジュース1製品です。
• 検査部位は、カントリーマアムはクッキー生地のみ、きのこの山はクラッカー生地のみ、たけのこの里はクッキー生地のみ、パイの実はパイ生地のみ、ビスコはクラッカー生地のみを使用しました。
• グリホサートの残留検査は、液体クロマトグラフタンデム四重極型質量分析計を利用した弊センター開発のグリホサート試験法で実施しました。検査対象成分は、グリホサートおよびその代謝物AMPA、グルホシネートとなっています。本試験によるグリホサートの定量限界は0.01ppm、AMPAは定量限界は0.05ppmです。試験系は、ガラスフリー、極力メタルフリーで行っています。
  • LC/MS/MS法の条件について
    液体クロマトグラフタンデム四重極型質量分析計：島津製作所製LCMS-8050
    分析カラム：InertSustain C18(metal free column) 3μm, 2.1x150mm
    データ処理：島津製作所製LCMS Solution / Insight
    定性・定量：ESI/MRM 安定同位体標識付き標準物質による内部標準法

結果

　表1に示すように、14製品からグリホサートが検出されました。小麦製品では9製品全て、大豆製品では4製品、そして今回は、りんごジュースからも検出がありました。残留基準値の一律基準(0.01 ppm)および小麦30ppm、大豆5ppmを超過する製品はありませんでした。

　なお、「痕跡」は、本試験法の定量下限以下（0.01 ppm）で検出があったことを示します。

考察と補足

• 今回調査した小麦製品は、原産地表記をしていないものばかりでした。このため、輸入か国産小麦か、またはその混合されたものを使ったのかはわかりません。ただ、国産小麦を中心に使用する製品であれば、表記するほうが、製品にとってメリットとなる場合が多いと考えられますので、表記がみあたらないことに加え、実際にグリホサートが検出された結果を踏まえれば、輸入小麦中心に製造されていると考えられます。
• 検出のあった小麦製品のうち、最も濃度が高かったのは、「小麦胚芽のクラッカー」でした。全粒粉など小麦の外皮に近い部分を多く含む製品では、グリホサートがかかった部分が多くなるため、残留する割合が高くなると考えられます。
• 北海道産大豆を使用する1製品からは、検出されませんでした。理由の一つとして、北海道では、グリホサートの収穫前散布をおこなわない大豆生産が増えている可能性が考えられます。背景には2020年にホクレンが、大豆の生産と流通あたって、消費者の要望に応えるため、収穫前にグリホサートの散布がおこなわれた大豆の取り扱いはしないと決断したことが影響していると考えられます。現在、流通しているのは、この決断後の2021年産大豆のはずですから、それが検出の差となっていると考えられます。
• 国産大豆を使用したチップスで検出が認められている製品があります。遺伝子組換えなどの課題も抱える輸入大豆ではなく、国産を使用したいというこだわりから生まれた製品と考えますが、北海道ホクレンのようにプレハーベスト処理をしない生産を掲げる農協や生産組合はまだ多くないようですので、そうした産地の大豆が使用されたためと考えられます。
• 「きな粉（北海道製造）」を使用する製品から「痕跡」が認められています。これは北海道産大豆を使用したという意味ではなく、「北海道で大豆をきな粉に加工した」という意味です。原材料が輸入か国産か、北海道産かは、この表記からわかりません。
• 果汁100%のりんごジュースからも、グリホサートが検出されました。りんご園地内や下草を除草、管理する際に散布されたものが、飛散し、りんごに付着、検出に繋がった可能性が考えられます。これまでの調査では、ワインからも検出されることがわかっており（報告）、果樹栽培では、園地管理に使用されたグリホサートの飛散による残留が起きていることがうかがえます。
• 世間には、きのこの山 vs たけのこの里論争というものがあるそうです。今回の調査では、きのこの山が勝ったと言うべきか、たけのこの里が勝ったと言うべきかは、判断が分かれるものですが、数字的にはきのこの山のほうが大きいという結果になっています。この数字の違いは、まず、使用される小麦のロット間差によると考えられます。また、原材料の使用比率は、メーカーさんでないとわかりませんが、クラッカー生地のきのこの山に比べ、たけのこの里のクッキー生地は、小麦以外に使用される材料の割合が多いと考えられることから、測定部位に占める小麦の使用量の差が反映されている可能性もあるかもしれません。
• 国産小麦からグリホサートは検出されないことがわかっています。子どもに心配な成分を食べさせずにすむように、また小麦自給率を高めるためも、国産小麦を積極的に使用するメーカーを選んだり、原材料を国産に変えるリクエストをメーカーに届けるようにしたいものです。
• この話題の向こう側には、行き過ぎた経済性の追求を生産者に押しつける食料生産があるように思います。いのち視点の持続可能な生産へ変革する取り組みと政策が求められます。

関連リンク

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遺伝子組み換え食品いらない！キャンペーン

日清製粉会員制業務用お役立ちサイト e-創・食Ｃｌｕｂ：小麦グルテン資料

農林水産省：米粉の情報：学校給食への米粉パン導入について

農研機構：グルテン不使用の100%米粉パンの製造技術を開発しました

モンサント社：グリホサートの有益性と安全性（PDF)

有機農業ニュースクリップ：グリホサート関連年表（2015~)

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