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はじめに

目白通りで自生するとうもろこし

 2000年の初め頃、私たちの施設が摘発した中国産冷凍野菜の残留農薬問題を背景に、輸入農産物に対する管理と監視に大きな関心が集まりました。特に、中国産農産物については、食品の流通にあたって、上流から下流まで大きなインパクトを与えました。この影響は、現在の輸入食品の管理と監視の定着化と、国産野菜への信頼に繋がっていると言えます。

 私たちは、当時、輸入食品を中心に残留農薬調査に取り組んでいましたが、ある日、大阪の漢方医の先生から、相談の電話をいただきました。その内容は、「日本の漢方生薬原料のほとんどは、中国産であり、食品がこの状況であるなか、漢方生薬は大丈夫だろうか」、というものでした。いくつかのやり取りの後、先生は、自費で中国産漢方生薬について、残留農薬調査をおこなうことを決められます。その数は、希少な漢方生薬も含め、50品目にのぼるものでした。その調査の結果、中国産漢方薬でも、農作物のように栽培がメインで生産される品目については、農薬残留が高頻度、高濃度で検出されることがわかってきました。

 この調査で得られた結果は先生のものであるため、公開することはできませんでしたが、この事実を受けて、農民運動全国連合会が、独自調査を実施することを決め、私たちの施設に調査要請を出します。それを受けて、都内の漢方薬販売店から、数点の商品を買い集め、2003年6月に調査結果を報告しました。

 その結果、漢方生薬から、日本では既に使用禁止になっている有機リン系殺虫剤のパラチオン、パラチオンメチル(1972年に使用禁止)の検出が発見されたほか、有機リン系、合成ピレスロイド系、有機塩素系とさまざまな殺虫剤が検出されることを確認しました。

生薬・漢方薬中の残留農薬分析結果4

 農民運動全国連合会は、厚生労働省へのデータ提供と記者会見を行い、国に改善を求めています。なお、漢方生薬は、食品ではなく医薬品のため、残留農薬基準がある食品衛生法の管理下にはありません。漢方薬は薬事法(現、医薬品医療機器等法)のもと、有効成分などの規格の適正性を求められますが、農薬についてはカバーをしていない仕組みになっています。とりいそぎ、食品衛生法にそって、判断基準となる残留基準値を探しましたが、ほとんどの品目について当てはめることができませんでした(基準値を当てはめられた品目は、当時の区分では、ニンジンとニンジン末などの4種類であったとされています。これについては、現在でもあまり変わっていないと考えられます。現在では、加工食品と見なした場合、一律基準の0.01ppmを基準値として参照することはできそうですが。)。

 私たちの調査結果と農民運動全国連合会の要望を踏まえ、厚生労働省は漢方生薬の残留農薬研究班を設置します。そして翌年の2004年に、11品種121検体を調査し、56サンプルから残留農薬を検出したという報告をまとめています。その内容は、私たちの調査と同様の結果でした。

 農民運動全国連合会の機関誌「新聞農民」には、2003年、厚生労働省厚生労働省医薬局審査管理課のコメントとして、「病気など体に問題がある人が服用する薬に、農薬が入っていてはならないというのは、いわずもがな、で、基準設定がないから残留してよいという事ではない。残留農薬が検出されたような場合、第一義的には製造した企業に責任があるが、国民の健康を守る立場からも国もすみやかに対応する。」と答えたと記録されています。また、2004年の朝日新聞に記事では、漢方薬の製造・販売会社でつくる日本漢方生薬製剤協会のコメントとして「製品になった段階で、残留農薬の成分を自主的に検査する方法と基準を検討している」という説明があったことが残っています。いまのところ、業界内に漢方生薬用の残留規格値があるかどうかについては、確認できていませんが、漢方生薬に関わる分野において、改善に向けた動きだした時代があったことは確かです。([2018年6月5日追記]日本漢方生薬製剤協会さんの「残留農薬への取り組み」ページによれば、漢方・生薬製剤と生薬に自主基準を策定し、平成17年6月1日から実施開始したとあります。)

 私たちの生活において、漢方生薬を直接摂取するということはほとんどありません。多くは、さまざまな漢方薬を組み合わせ、用途に応じた処方、製造を行い、粉末や顆粒になったエキス剤での服用が一般的です。そのため、今回の結果が直接、私たちが服用している漢方薬に反映される結果とはなりませんが、原材料については、一歩進んだ管理や監視などの対応が求められる段階にある、という結果と教訓を得た調査だったと感じています。

 この調査から、およそ15年。現在の漢方生薬の残留農薬はどのようになっているのでしょうか。農民運動全国連合会の依頼を受けて、刷新された分析装置と検査態勢のもと、市場調査に取り組んでみました。

分析方法などについて

スパイス

結果

表1に示すように、複数の漢方生薬から、複数の残留農薬が検出されました。

表1 漢方生薬の残留農薬分析結果(2017)
ID
 
試料名
原産地
検出成分名
検査濃度(ppm)
1 キジツ

キジツ

記載なし

アゾキシストロビン

アルジカルブ

ボスカリド

痕跡

0.009

0.089

2 サンシュユ

サンシュユ

記載なし

アセタミプリド

クロルピリホス

痕跡

0.226

3 ソヨウ

ソヨウ

記載なし

アセタミプリド

クロルピリホス

痕跡

0.029

4 タイソウ

タイソウ

記載なし

イミダクロプリド

0.003

5 チンピ

チンピ

記載なし

2,4-D

アセタミプリド

イマザリル

イミダクロプリド

カルボフラン

クロルピリホス

チアメトキサム

フェンピロキシメート

ヘキシチアゾクス

0.053

0.008

0.027

0.006

痕跡

0.028

痕跡

痕跡

痕跡

6 シャクヤク

シャクヤク

記載なし

検出せず

検出せず

7 オウゴン

オウゴン

記載なし

検出せず

検出せず

8 ソウジュツ

ソウジュツ

記載なし

検出せず

検出せず

考察と補足

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関連リンク

生薬・漢方薬中の残留農薬分析結果4(2003)

農民運動全国連合会:新聞農民2003年6月23日号:漢方薬から残留農薬

農民運動全国連合会:新聞農民2004年9月20日号:食と農を守る強力な砦(とりで)に

日本漢方生薬製剤協会 : 残留農薬への取り組み

薬用植物栽培における使用農薬の実態調査(第1報) : 中国産チンピの使用農薬,生薬学雑誌 65(1), 10-17(2011)

薬用植物栽培における使用農薬の実態調査(第2報) : 中国産タイソウの使用農薬,生薬学雑誌 65(1), 生薬学雑誌 68(2), 78-87(2014)

東京衛研年報:原料生薬に含まれる有害物質の実態調査(第3報) -薬用ニンジンについて-(PDF)

東京衛研年報:原料生薬に含まれる有害物質の実態調査(第4報*) -タイソウについて-(PDF)

輸入材料を使用した冷凍食品(野菜) および輸入野菜の残留農薬分析結果(2002)

外食店などのほうれん草調理品からの残留農薬分析結果(2002)

市販の冷凍枝豆・生鮮枝豆および居酒屋・ファミレス・コンビニ・スーパーの枝豆調理品残留農薬分析結果(2002)

冷凍食品(野菜)の残留農薬分析1(2000)

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