一社）農民連食品分析センター：日本産ハチミツにもグリホサートが残留している可能性について

はじめに

　2020年7月、ニュージーランド政府の第一次産業省が、ニュージーランド産のハチミツからグリホサートが検出されることをまとめたレポートを発表し、話題となりました。

　偶然にも、ちょうどこの発表とタイミングが重なるように、私どもの施設に、「日本で採取、瓶詰めされたハチミツについてグリホサートの残留検査をお願いしたい。」という依頼があり、検査を行いました。

　その結果、検査依頼のハチミツ1検体からグリホサートの検出が認められました。日本産のハチミツであっても海外の事例同様、グリホサートが検出される可能性があるようです。このレポートは、検査依頼者さまのご協力を得まして、その結果を紹介するショートレポートです。

分析方法などについて

HPLC

検査試料は、2020年7月に、検査依頼があった日本産のハチミツ1検体です。
グリホサートの残留検査は、高速液体クロマトグラフ質量分析計を利用した弊センター開発のグリホサート試験法で実施しました。検査対象成分は、グリホサートおよびその代謝物AMPAとなっています。本試験によるグリホサートの定量限界は0.01ppm、AMPAは定量限界は0.05ppmです。試験系は、ガラスフリー、極力メタルフリーで行っています。
- LC/MS/MS法の条件について
  高速液体クロマトグラフ質量分析計：島津製作所製LCMS -8050
  分析カラム：InertSustain C18(metal free column) 3um, 2.1x150mm
  データ処理：島津製作所製LCMS Solution / Insight
  定性・定量：ESI/MRM

結果

honey_bottle

　表1に示すように、検査品からグリホサートが、「痕跡」検出されました。

表1 日本産ハチミツのグリホサート残留調査結果2019
No.	商品名	地域	分析結果(ppm)	食品衛生法の残留基準値(ppm)
1	日本産ハチミツ	-	グリホサート　痕跡	一律基準 (0.01)

考察と補足

今回依頼を受けました試料には、グリホサートの残留があることが確認されました。定量下限での検出であったため、検出濃度を確定することはできませんでしたが、検出の有無を判断できる能力である検出限界を上回る残留であると十分に判断できるレベルでの検出でした。
日本の食品衛生法には、ハチミツについてグリホサートの残留基準の設定はありません。このため、一律基準である0.01 ppmを判断の基準とすることになります。よって、今回、検査をしましたハチミツは、食品衛生法で、問題の無い食品として流通できると評価されるものです。
ミツバチは、山野の蜜を巣に持ち帰ったあと、貯蜜します。通常、そのままの状態では、水分が多く、蜜の保存性と利便性が良くないため、ミツバチは、巣房につめ、水分を減らし、糖度を上げる行動をします。この行動の結果、低濃度で持ち帰られたグリホサートであっても、ある程度、濃縮されてしまう可能性があるのかもしれません。
日本でも、グリホサートは広く使用されていますが、日本産のハチミツにどの程度、グリホサートが残留しているかについて厚生労働省や農林水産省が調査、報告したものや学会などの論文は、今のところ、見つけられていません。実態の調査が求められます。
今日、養蜂の現場では、新しい病害、薬剤耐性ダニ、ネオニコチノイド系農薬などによる農薬害、気候変動など、さまざまな課題があることが報告されています。多くを自然の営みに委ねる養蜂家さんの負担と苦労はかなりものになっている現状があります。特に、今回、見えてきたグリホサートの残留の可能性については、実害を受けてしまう養蜂家さん自身での解決が難しい課題です。また真面目なハチミツを取り扱う業者さんの多くは、ハチミツの持つ食品としての効能を普及することに努めているところにあります。国や行政などによる調査研究、情報提供、対策などが早急に求められていると考えます。

資料：ニュージーランド政府のハチミツのグリホサート調査レポートについて

ニュージーランド政府のレポート

ニュージーランドの第一次産業省（いわゆる農林水産省）が、2020年7月にニュージーランド産ハチミツについて農薬を調査した結果を発表しています（レポート）。このレポートの興味深い点は、はちみつ中の除草剤グリホサートの残留について特化してまとめられている点です。
2017/2018年の調査では、300検体（採蜜された状態、つまり製品化などの調整はされていない巣房から絞っただけのはちみつ270検体と、市販のパッケージ済み商品30検体）を調べたところ、採蜜されただけの状態のはちみつ233検体（全体の77.7%に相当）では、報告限界値以上のグリホサートは検出されませんでしたが、5検体からは、グリホサートが検出され、その検出濃度は、仮にこの5検体のはちみつが、薄められたり、他のものと混合されたりせず、そのまま製品として出荷された場合、ニュージーランド政府の定める一律基準（0.1 mg/kgを超過すると違反）を違反するレベルであったようです（最大で1.1 mg/kg）。残り62検体（全体の20.7％に相当）からは、基準値違反ではないものの、グリホサートの検出が認められたようです。
まとめると、300検体中、67検体からグリホサートが検出され、そのうち、5検体は、製品化される前のハチミツであったものの、ニュージーランド政府の定める基準値を超過する濃度でグリホサートが含まれていた、ということです。
なお、日本同様、ニュージーランドも、ハチミツには残留基準値の設定はなく、一律基準が当てはめられ、その適切性が判断されているようです。ニュージーランドの一律基準は0.1ppmが設定されています。この一律基準は、現時点での日本の一律基準より、10倍ほど大きい数値が設定されていることになりますので、この2国間の基準値の差を考えますと、ニュージーランド国内では、問題の無いとして流通される製品が、日本などの他国に輸出されると、基準値を超過してしまう製品が発生する可能性があるように見えます。このギャップについては、ニュージーランド政府の第一次産業省は、「ニュージーランドから輸出されるハチミツには輸出対策用の残留基準値として、国内販売用とは別途に0.01mg/kgの規制値を設定している」のだそうです。よって、原則的には、ニュージーランド輸出されるハチミツは、この基準をクリアしていなければ、輸出できないという仕組みを備えていることになっています。ただし、この規制値の設定は、輸出時、どの程度、義務づけられているのかについては確認ができていません。
レポートの考察によれば、この検出率は、EFSAによりオーストリアとドイツでの調査され報告（EFSA JOURNAL Volume16, Issue7 July 2018）に示されているグリホサートの検出率と同等であり、特段ニュージーランド産のハチミツが高い訳ではない、同様の調査例が他国にもある、と示されています。ｊ
ニュージーランドというと、大自然に恵まれたイメージがあり、そこかしこでグリホサートが使用されているとは想像しにくい印象がありますが、検出されたはちみつがどのような種類の植物から検出されたかについてまとめられたデータを確認すると、検出の理由が見えてきます。
グリホサートが検出されたはちみつについて、どういった植物の花由来であるかをまとめたデータによれば、グリホサートが検出されたはちみつのうち、69%がクローバー、牧草、多花（日本で言う百花蜜？）もしくはブレンド蜜由来のはちみつであったことが示されています。特にクローバーの検出率が高く69%のうちの27%を占めています。
クローバーは、牧草地の輪作体系の中で、牧草の植え替えの間、緑肥効果を狙って広く植えられることがあります。クローバーは、マメ科の植物で、その蜜はミツバチが大変好む傾向があります。
牧草地では、休耕地や牧草への植え替え、更新、改修に、はびこる雑草を枯らすためグリホサートの散布が行われることがあり、そうした際に散布されるグリホサートが影響を及ぼしている可能性がある、と私たちは考えています。
また2017/2018年の調査では、クローバー蜜に次いで、日本でも大変人気のあるマヌカハニーからもグリホサートの検出が認められることが示されています。マヌカハニーはクローバー蜜についで24%の検出率とまとめられていました。
ニュージーランドの第一次産業省は、この結果を受けて、2018/2019年は、マヌカハニーに特化した調査を実施しています。その結果、市販されているパッケージ済みのマヌカハニー商品60検体（単花種マヌカおよび多花種マヌカ）を調査したところ、11商品（全体の18.3%）で、グリホサートが検出されたと報告しています。一律基準を違反するものはなかったとあります。
検出が認められたマヌカハニー11検体中のグリホサート濃度は、いずれも0.01 ppmを超過しています（ニュージーランド政府指定の検査機関の報告限界*が0.01mg/kgなので当然ですが）。

*報告限界(LOR)：その施設で実施されるその成分についての試験法で、その成分の検出がある、と定性、定量ができる最小の値。つまり、その試験法で、どのぐらいの濃度までなら検出できるかという能力を示す数値ということ。日本で言うところの定量下限に相当。
一般的なはちみつの摂食量や頻度を勘案すれば、今回、報告されている濃度のグリホサートが、私たちの体に急峻な影響を与えるとは判断できない濃度であると、厚生労働省などでは評価するレベルではありますが、はちみつで、これほどの検出頻度でグリホサートが検出されるという点については、大変意義深い実態を示した調査であることは確かです。世界のグリホサートの普及状況を考えれば、他国でも、同じような検出が認められる例があるのかもしれません。また巣を中心に半径2kmほどを集蜜範囲とするミツバチの行動を考慮すると、その範囲内の環境がどの程度グリホサートによる影響を受けているのかを示す一つの指標として評価できることを示すのかもしれません。
なお、ニュージーランド政府が、このグリホサートに特化した調査をおこなったのは2014年までに遡るようです。2014年にニュージーランド産のはちみつから検出を認め（In 2014, Rubio et al1）、近年のグリホサートがおかれている状況を踏まえれば、ニュージーランド特産品のはちみつが、特にヨーロッパなどでのマーケティングで影響を受ける可能性があるのではないかという指摘をうけ、そのリスク評価のために実施されたという記載があります。自国の農産物への攻めの思いが感じられるお話です。
やや気になるのは、製品化される前の蜜では、違反の検出が認められるにもかかわらず、市販されている製品には違反品はない、と報告されている関係についてです。これは製造者が、しっかりとした品質管理工程で検査をやっており、違反に相当する原料蜜があった場合は、使用せず廃棄されるため、製品に違反品相当のものが存在するような事故は、ほぼ起きないということなのか、単に今回の調査がたまたまそうであったのかについては、よくわかりません。基準値を違反している原料蜜を、違反していない適切な原料蜜と混合すれば、製品中のグリホサート濃度は下がることになります。なお、日本の場合、食品衛生法では、原材料が基準値を違反していないものを使用して製品を製造することが原則となっています。そうした製造は、わが国の食品衛生法の考え方にはそぐいません（おそらくほとんどの国がそうだと思いますが）。(2020年8月23日加筆）
この報告によれば、2017/2018年には、グリホサート以外に、474成分の農薬残留についてもモニタリング調査がおこなわれているようです。この結果については、別レポートになるようです。

ハチミツの検査相談に対応しています

ハチミツに残留する残留農薬分析についての検査相談に対応しています。ネオニコチノイド系農薬のほか、除草剤グリホサートなど、さまざまな農薬成分について検査を行っています。

検査の納期は、概ね1週間程度です。お急ぎの場合は、緊急での対応も可能な場合があります。検査に必要なサンプル量は、50g程度から対応が可能となっていますが、ご用意が難しい場合は、直接、状況などをお伺いできれば、サンプルの状態などに応じて、対応が可能な場合がありますので、お気軽にお問い合わせください。（詳細）

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